つたえる

ヤマト株式会社「テープノフセン」
~糊口を凌いで一世紀、伝統とは革新の連続である~

糊口を凌いで一世紀、伝統とは革新の連続である

現在でも幼稚園や保育園では、工作の時間に青色のボトル容器等に入ったでんぷん糊「ヤマト糊」を使っているという。幼い頃の自分の記憶とその光景が重なる読者も多いのではないだろうか。
つくっているのはヤマト株式会社
創業は約120年も前の1899(明治32)年だ。時代を反映して、原料である主成分のでんぷんは食物アレルギーの原因となりにくいタピオカでんぷんに変わっているものの、「腐らず、使いやすく、保存できる糊」というコンセプトはそのまま。

◆自然にやさしい天然素材からつくられているでんぷん糊。今でも小学校や幼稚園で愛用されています。

 

ヤマトには、もう一つのロングセラー商品がある。1975年に発売された液状のり「アラビックヤマト」だ。アラビア糊の使い勝手の良さと合成のりの滑らかさを組み合わせた画期的な商品として、「手を汚さず、きれいに塗れる糊がほしい」という当時のニーズに見事合致した。しかし、スポンジキャップの開発だけでも約3年の歳月を要したという。
開発の突破口は家庭にもあるプラスチック製の“ざる”。その程よい弾力性と強度に着目し、これを応用してスポンジと組み合わせ、なめらかで均一に薄く塗布できる特殊スポンジキャップを生み出した。「ピンチをチャンスに。伝統とは革新の連続である」を合言葉に、ヤマトは、常に時代の流れを読み、新たな市場への開拓にも積極的だ。

◆2009年度「グッドデザイン ロングライフデザイン賞」を受賞

 

自分の欲しいものをつくる、が商品開発の原点

「接着の持つ限りない可能性を、創造的な商品に変えて世に送り出すというのが、創業からの一貫した開発スタンスです」と語っていただいたのは、リテール商品企画室の宿谷尚代マネージャー。そうした企業姿勢を物語るのが、2017年度のグッドデザイン・ベスト100・特別賞[ものづくり]を受賞した「テープノフセン」だ。その開発の経緯を開発グループの関根雄二チーフマネージャーにうかがった。

◆開発グループ 関根雄二チーフマネージャー
◆2017年度グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」
 2017年度グッドデザイン特別賞〔ものづくり〕受賞

 

「テープノフセン」は、1992年に市場に投入した「メモックロールテープ」がそのルーツだそうだ。
「この商品は文具の付箋紙のような使い方ですね。実はこのロール粘着メモは、ヤマト製品の中でもお客様から高いご支持をいただいています」と関根さん。
「メモックロールテープ」は、従来の付箋紙の「ヒラヒラして折れる」「剥がれる」という不満を解消した新しいタイプの全面のり付きテープ型フセンであるという。続けて、開発当初の苦心談を語っていただいた。
「我々は文具として売り込んでいたのですが、あるお客様がキッチンまわりで使って重宝しているというので、家庭での使用例をチラシに載せたりして、ジワジワと売上が伸びていきました。新たな用途提案がヒットの要因の一つになりました」
内容によって好きな長さに自由にカットできるカッター付きであるのもヒットのポイントであるという。下を隠さずメモできる半透明のフィルムタイプは、日本文具大賞2009で機能部門の優秀賞を受賞した。

◆「メモックロールテープ」切って、貼って、メモして、はがして、貼って…使い方あれこれ
◆「メモックロールテープ フィルムタイプ」ラッピングやクラフトなどのアクセントにも使用できる

 

「最近ではフリーデスクが導入されるなど働き方も変わり、使用シーンの変化にともなって、より携帯性が求められるようになってきました。そこで、15㎜幅のポケットサイズで紙タイプの商品として2017年に発売したのが『テープノフセン』です」と宿谷さん。
「紙やフィルムのようにロールテープの素材が違えば、ひっぱり出した時のテンションや、切れ味も違います。カッター部分の歯の角度とか大きさのバランスを調整し、何度も試作を重ねました」と関根さんが言うと、「お客様の安全と安心が何より大事ですから、小さなところにも工夫を凝らさなければ世の中には受け入れていただけません。常に改良とバリエーションを加え、進化し続ける。それこそがロングセラー商品を持っている会社の使命だと思います」と宿谷さん。

◆外出先での覚え書きやファイルのインデックス、キッチンまわりの容器の表示ラベルなど使い方いろいろ

 

「デザインの力を感じる美しく機能的な製品である。精度の高いものづくりを反映させた製品は機能的なだけでなく、カラーリングも含めて存在自体が美しいと言って良いレベルにある」と、グッドデザイン賞の審査員の評価でもテープノフセンの商品開発は絶賛された。
「新商品開発の原点は、自分が欲しいものであるかどうか。もちろん市場を意識しつつもですが、自分が使ってみたいと思うものをいかにカタチにできるかがポイントです。開発者冥利といいますか、自分の欲しいものが商品になるのですから、これは開発者ならではの特典ですね」と、関根さんに笑顔で締めくくっていただいた。