BB坂ノ途中 変態読書のススメ

第12回 あんこは酒のアテになるのか?

いらっしゃいませ。
ようこそBook Bar 坂ノ途中へ。
ここは、編集者RとKのふたりが営むバー。今夜は甘辛両党のKが店番です。

ついこの間、新年を迎えたばかりだと思ったら、もう2月ですね。2月といえばバレンタイン、日本では一年で最もチョコレートが売れる月だそうです。最近では洋菓子メーカーだけでなく、煎餅や和菓子の会社もバレンタイン用の商品を出していますね。私も先日、デパ地下で珍しいものを見つけたので思わず衝動買いをしてしまいました。

これ、あの羊羹で有名な「虎屋」がバレンタイン限定で発売している、ラムレーズンの羊羹です。刻んだラムレーズンを練り込んでいるそうですから、アルコールのアテにもいいかもしれませんね。羊羹とアルコールの組み合わせ、意外なようですがそうでもないんです。食通としても知られる作家、開高健はウイスキーと羊羹の組み合わせが好きだったそうです。しかも、銘柄にもこだわりがあって、虎屋の「夜の梅」とマッカラン、これが最高だと言っていたらしいですよ。開高健が生きていたら、このラムレーズン入りの羊羹をなんと言ったか気になります。

開高健だけでなく「あんこ好き」の著名人は結構多いんです。その証拠が『ずっしり、あんこ』という本。これは古今東西のあんこにまつわる話を集めた本で、古くは文豪の芥川龍之介から、日本が誇る漫画家の手塚治虫、『負け犬の遠吠え』でおなじみのエッセイスト酒井順子、時代小説家の山本一力、コピーライターの糸井重里などなど、39人の著名人がそれぞれ「あんこ」に対する愛情やこだわりを綴っています。

たとえば、開高健と同じく食通として知られる作家・池波正太郎は酒のアテではないですが、神田の蕎麦屋や、あんこう鍋屋、とり鍋屋の帰りに、甘味屋「竹むら」によって、粟ぜんざいを食べたそうです。しかも若い頃は女性ばかりの甘味屋に入るのが恥ずかしくて、身を縮めて食べていたと言います。あの池波正太郎がねえと、想像するとニヤニヤしてしまいます。しかも酒を飲んで蕎麦や鍋を食べたあとに粟ぜんざいを食べるなんて、まさに「甘いものは別腹」というやつですね。

こんな風にそれぞれの業界で名を馳せたいい大人たちが「私は粒あん派」「いやこしあんも捨てがたい」「どら焼きといえばあの店」だと、あんこへの偏愛を真剣に語っているのがなんとも微笑ましいんです。そして何より、よくもまあこれだけの数のあんこに関するエッセイを集めてきたなぁと。考えてみれば、この本を担当した編集者のあんこへの偏愛ぶりが一番凄いかもしれませんね。何かひとつのことについて、ここまで熱く語れる作家も、1冊の本を作ってしまえる編集者も、ある意味羨ましくもあります。

まあ、そんな小難しいことは抜きにして、ゆるーく読める本です。今宵はラムレーズンの羊羹をつまみにマッカランを飲みながら、この本を読んでほっこりしてみませんか?

【今回紹介した本】
『ずっしり、あんこ』河出書房新社

39人の文筆家による「あんこ」にまつわるエッセイ集。本書は河出書房新社の「食」にまつわる作品のシリーズ「おいしい文藝」の第7弾。あの文豪が? あのエッセイストが? と「あんこ」を通して作家たちの意外な一面を見ることができる、読んで美味しい珠玉の1冊。

文:K