いらっしゃいませ。
ようこそBook Bar 坂ノ途中へ。
ここは、編集者RとKのふたりが営むバー。今宵は美味しいアルコールがあると、ついついちゃんぽんをしてしまうKが店番です。

年末年始は飲む機会が増えますから、ついついちゃんぽんをしてしまいますよね。「ちゃんぽん」と言えば長崎の麺料理が有名ですが、あの「長崎ちゃんぽん」に、あれこれいろんな具材がたくさん入っていることから、同じ日にいろんな種類のお酒を飲むことをちゃんぽんと言うようになったという節があるそうです。

悪酔いするからちゃんぽんは嫌いだという方も多いようですが、お客様も同じですか? でもちゃんぽんをして悪酔いする原因は、度数の違うアルコールをいろいろ飲むと自分の適性量を超えているかどうかが判断できないため、ついつい飲み過ぎてしまうからだそうです。ですから適量を守れば、まずはビールで喉を潤してからワインと料理を楽しみ、最後はウイスキーで締めるなんて飲み方をしても悪酔いはしないんですよ。まあ、無理強いはしませんけどね。

私はアルコールのちゃんぽんも好きですが、作家のちゃんぽんも好きなんですよ。つまりアンソロジー、いろんな作家が書いた短編をあるテーマにそって1冊の本にしたものです。たとえば、その本棚の一番下にある『小川洋子の偏愛短偏箱』なんていかがでしょう?

この本は『博士の愛した数式』で有名な作家の小川洋子さんがセレクトした短編集なのですが、テーマは「小川洋子の偏愛する短篇」。小川洋子さんは小さい頃、切った「爪」と「かさぶた」を箱に大切にしまってコレクションしていたそうなんです。ちょっと変態っぽいですけど、思い返せば子どもの頃に、今なら考えられないようなものを大切にしまっておいた記憶ってありませんか? ちなみに私は子どもの頃、瓶入り牛乳のキャップを集めていました。

そんな偏愛的な感覚で小川洋子さんがずっと心の中にしまっておいた短篇を1冊にまとめたのがこの本です。

収録されている作品は、内田百閒や川端康成といった教科書に出てくるような作家から、日本を代表する推理小説家・江戸川乱歩、脚本家としても有名な向田邦子なんていうラインナップ。江戸川乱歩というと少年探偵団が有名ですが、実は子どもには読ませられないような、変態的な作品も多いんですよ。ちなみにこの本に収録されている乱歩の作品は……これ以上はネタばれになるのでやめておきましょう。

『小川洋子の偏愛短偏箱』は、1作品ごとに小川洋子さんの解説エッセイがついているんですが、読むと、「ほら、あなたもこういう気持ちわかるでしょ?」と、まるで自分の変態的な部分を指摘されたような気持ちになるから不思議です。どうです、気になりませんか? 大丈夫ですよ、どんなに読んでも小説で悪酔いはしませんから。

 

【今回紹介した本】
『小川洋子の偏愛短偏箱』小川洋子:編集(河出文庫)

作家、小川洋子が偏愛する16作品を収録した短編集。時代を経ても色あせず、読者を魅了し続ける珠玉の短篇に、編者である小川洋子が独自の視点でその作品の魅力を解説した、贅沢な1冊。すでに読んだことがある短篇にもきっと新たな発見があるはず。

文:K