いらっしゃいませ。
ようこそBook Bar 坂ノ途中へ。
ここは、編集者RとKのふたりが営むバー。本日は家での食事にいい加減飽きてきたKが店番です。
コロナ禍で、相変わらず外食が難しい状況が続いていますね。私もほとんど毎日家で食事をしていますが、いい加減飽きてきました。作るのも面倒なので、お昼は納豆ご飯と味噌汁、あとは漬物で簡単にすませてしまうことも多いですね。
一見、栄養が偏っているようですが、健康診断の結果は前より良くなっていました。それでふと思ったのですが、納豆も味噌汁の味噌も、漬物もすべて発酵食品。数年前に塩麹などの発酵食品が健康にいいとブームになったことがありますが、毎日発酵食品を食べているおかげで健康になったんですかね。
発酵といえば以前、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんのセミナーに参加したことがあります。小倉氏は発酵が好きすぎて、「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにしよう」と、「てまえみそのうた」という歌って踊れるDVDつきの絵本を発売するなど、さまざまな活動をしている愛すべき発酵オタクです。そんな彼の著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』は、タイトルからして、変態臭……ではなく、発酵愛が漂ってきます。
本の内容もそうなんですが、本のデザインも、通常は巻末に入る注釈がそのページの下に書かれていたり、小倉氏の手書きのイラストや図などがふんだんに入っていたり。盛りだくさんの内容と見ていて楽しいデザインが魅力ですが、本を作る立場からすると、こんな手の込んだ本は作るのが大変だったろうなあと、ついつい編集者の苦労に思いを馳せてしまいます。
とはいえ、読むだけでしたら、こんなに楽しい本はありません。たとえば酒をテーマにした章では、「日本的ワイン」を説明するのに、こんな表現をしています。
ワイン専用ブドウにしては突っ込みどころが多い甲州ブドウは漫才コンビの「ボケ」で、そこに「なんでやねん!」と突っ込む世話焼きの醸造家は「ツッコミ」だ。ボケとツッコミがお互いの良さを引き出して、愉快な漫才……じゃなくてワインになるのであるよ。
(『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』より)
また他の章では発酵菌と酵素の違いを説明するのに、発酵菌をジョン・レノンに、酵素を名曲「イマジン」にたとえています。それってどういうこと? と興味を持ちますよね? 発酵を学問として考えると難しく感じますが、私たちの身近なものに置き換えたり、興味深い切り口から解説したりと、とにかく読み物として面白い。面白いなーと思って読み終えると、発酵の知識が身についている。そんな本なんです。左党ならかならず興味をひかれるであろう、日本酒についての解説も独特の表現がされていて、パラパラとめくりながら、酒を飲む……なんていうのもオツですよ。
今夜は自家製の味噌漬けクリームチーズが、ちょうどいい感じになっているので、日本酒に合わせてみませんか。
【今回紹介した本】
『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』小倉ヒラク(木楽舎)
大学時代に文化人類学を専攻していた著者は、バックパッカーとして世界中の文化を見てまわる旅をしていた。あらゆる国の宝飾品や器を集めていたはずが、気づけば僻地へと足を運び、味噌や酒、蔵の土壁のカケラなど、醸造にまつわるものをせっせと収集し微生物の研究に没頭。気づけば世界初(?)の発酵デザイナーとなっていたのだった。そんな発酵の魅力にとりつかれた小倉氏の発酵に対する情熱が、これでもかとばかりに詰め込まれた、笑えてためになる1冊。
文:K