BB坂ノ途中 変態読書のススメ

第1回 本棚を覗き見

いらっしゃいませ。
ようこそBook Bar 坂ノ途中へ。
ここは、編集者RとKのふたりが営むバー。営業日、オープンの時間は気まぐれ。
〆切が迫れば、鬼の形相でパソコンに向かい臨時休業。
納品が完了すれば、ホッとして自分たちが飲むために遅い時間に灯りをともす。
そんな夜、通りすがりに寄ってくださったあなたはラッキーかも。
この間、私(R)が編集した本の著者が、地元の地酒を送ってきてくれたんですよ。ちょうど今から開けて飲むところです。もし、日本酒お嫌いじゃなかったら、一緒にいかがですか?

 

これ、長野の蔵元が造った「積善」というお酒。りんごの花の酵母を使って醸しているんです。めずらしいでしょ。わずかにりんごの香りがして飲みくちもフルーティ。日本酒をあまり飲み慣れないとか、どちらかというと苦手という人もおいしく飲めると思います。

あ、本棚、気になりますか? 説明が遅れましたが、ここは編集者が自分たちも飲むついでに営んでいるバーなんで、本は売るほど揃っているんです。というのは半分冗談で、実際にお売りすることはよっぽどじゃない限りありませんが、ここで読んでいただくぶんには構いませんので、ご興味があればどうぞ自由に手に取ってください。面白そうな本、ありますか?

本棚って実にプライベートな空間で、本当は人に見せたくないものだったりします。いや、見せても良いんですけど、それは自分の心の中を垣間見られることを覚悟した上でのこと。自分が何を考えているか、どんな人間であるのかを知られたくない相手には、披露したくないなって思います。なんて、自分では偏屈なこと言ってますけど、他人の本棚を覗くのは好きだったりします。覗き見趣味? ええ、そうかもしれませんね。あまり自慢できる趣味ではないかもしれない。でも、これが面白いんですよ。

そんな趣味を満足させてくれる本をご紹介しましょう。そう、その棚の真ん中の段の右端に、その名もずばり『本棚』っていう本があるでしょう。作家や漫画家、イラストレーターなど15人の方の本棚を写真で紹介している1冊。これ見てると飽きませんよ。

作家の本棚は、やっぱり作家らしく小説が並んでいると思いきや、意外に青年漫画が棚一面に並んでいたり、詩集、短歌集、俳句集などにも目を通して文章修行をするという小説家の本棚もありました。この人たちの手から生み出される作品の裏側には、こういった本たちがあるんだな……と、とても感慨深い。良い作品は、一朝一夕に作られるものではないんですね。

写真によっては、書名までハッキリ読み取れない本も写っているんですが、自分の本棚にもある本だったら、色や書体、装丁だけで、“あ、あの本だ”ってわかりますからね。なんとなく嬉しく感じると同時に、同じ本を持っているその人に親近感さえ芽生えてくる。なんか、他人とは思えないような? そこまで言ったら言いすぎかもしれませんけれど。

やっぱり本棚は、その人を形成しているものの片鱗が窺える場所だから、ある意味その人の宇宙と言ってもいい。似た宇宙を形成している人には親近感を覚えるけれども、逆に全く違う宇宙の中に生きている人は、それはそれで頭の中はどんなふうになっているんだろう? って興味を覚えませんか?

以前担当した女性の作家。彼女はライトノベル系の作品を書いているんですが、なんと本棚には短編の名手として知られる阿刀田高さんの本が並んでいました。一見、意外な組み合わせだと思いましたが、よく考えてみたら、彼女の作品に見られる、無駄のない凝縮された描写は、そういう短編を読むことから養われたのかも知れない。そう納得できたんですよ。

あ、すみません、喋り過ぎましたね。りんごの香りの日本酒に合うような本、見つかったでしょうか? すっきりとした純米酒には日本の地方の景色ばかりを集めた写真集なんかもいいのではないでしょうか。日本酒の味を左右する米。稲穂が風に揺れる風景を眺めながら飲む日本酒は、より旨くなりそうです。今夜もどうぞごゆっくり。

 

【今回紹介した本】
ヒヨコ舎編『本棚』(アスペクト 2008刊)
カバーデザインはシンプルなのだけど、カバーを取ると全面写真の贅沢な装丁。そんなところにも、編者の本棚愛が垣間見える。

文:R