BB坂ノ途中 変態読書のススメ

第8回 いちばんたいせつなことは、目に見えない

いらっしゃいませ。

ようこそBook Bar 坂ノ途中へ。

ここは、編集者RとKのふたりが営むバー。今日は最近、ドライフルーツにはまっているKが店番です。

早いものでもう12月、今年もあとわずかですね。子どもの頃はクリスマスやお正月などのイベントがたくさんある年末年始が楽しみでしたが、大人になるにつれそんなワクワクするような気持ちはどこかへ行ってしまいましたねえ。

お客様もですか? でしたら、ぜひ飲んでいただきたいものがあるんですよ。それがこちら、フランスの生産者エリック・ルイが作った赤ワインです。

ワインを紹介する前に少し脱線しますが『星の王子さま』という小説を知っていますか? 読んだことはなくても、ほとんどの方がタイトルくらいは知っているんじゃないでしょうか。実は今日おすすめするワインは、エリック・ルイが『星の王子さま』からインスピレーションを受けて作ったそうなんです。

『星の王子さま』は飛行士でもあるフランス人作家、サン=テグジュペリの小説です。飛行士の主人公が不時着したサハラ砂漠で出会った不思議な少年の話なのですが、この少年がある小さな星からやってきた王子さまです。

こう聞くと、子ども向けの童話かと思いがちですが、そうではないんですよ。ちなみに私は子どもの頃、何度も『星の王子さま』を手にしましたが、そのたびに書いてあることがよくわからずに途中で挫折しました。でも大人になって読んでみたら、驚くほどぴたっと自分の気持ちにはまったんです。

このワインを作ったエリック・ルイも私と同じような経験をしたそうです。さまざまな星を旅した王子さまが地球で出会った「きつね」の言葉にこんな一説があります。

――いちばんたいせつなことは、目に見えない

この言葉が栽培家・醸造家としてのエリック・ルイに大きな気づきを与えたんだとか。それ以来、知識や先入観にとらわれずに、素直な心で「感じる」ものを大事にしてワインを作っているんだそうですよ。このワインのエチケットも『星の王子さま』の挿絵からエスプリを得たデザインだそうです。

大人になると、目先のこと、見栄や欲、先入観にとらわれて本当に大切なものを見失いがちだということを『星の王子さま』は教えてくれるんですが、果たして先入観にとらわれない醸造家が作ったワイン、どんな味がするのか気になりませんか?

ぜひ、先入観なしに飲んでみてください。そうそう、お客様の後ろにある本棚に『星の王子さま』の本が2冊あるんですが、訳者が違うんですよ。この作品はとても人気なので、いろんな方が翻訳されていますが、訳者の性別や翻訳された時代によって、受ける印象が異なります。

たとえば、この「いちばんたいせつなことは、目に見えない」と言ったきつねの一人称を、ある訳者は「おれ」とし、別の訳者は「ぼく」と訳しています。それだけでかなりきつねの印象が変わるんですよ。それに「おれ」とした訳者は精神的にマッチョな人なのかなぁ、なんて想像するのも楽しいですよ。

世の中の評判や先入観にとらわれず、いろいろ試して、自分に一番しっくりくる『星の王子さま』を見つけてみるのもいいかもしれませんね。そんな心の余裕もたまには必要ですよ。では、ワインをお注ぎしましょう。

【今回紹介した本】
『星の王子さま』(新潮文庫)著:サン=テグジュペリ 訳:河野万里子
『星の王子さま』(集英社文庫)著:サンテグジュペリ 訳:池澤夏樹

砂漠に不時着した飛行士の「僕」の前に、不思議な少年が現れた。それは小さな小さな故郷の星を旅立ち、さまざまな星をめぐる旅をしている王子さまだった。大切に育てていたバラとの諍い、訪れた星で出会った酒びたりの男や、計算ばかりしている実業家…。純粋な心を持つ王子さまの目を通して描かれる彼らは、まるで忙しさや常識という鎖にがんじがらめになった私たち現代人のようで…。刊行後60年以上を経てもなお、世界の人々を魅了し続ける不朽の名作。大人になったからこそ、読みたい1冊。

文:K