平屋に越してから、もうじき1年になろうとしている。近所の御老人方とも仲良くさせていただき、ここの環境にも慣れてきた。家に「私らしさ」が出てくるまでには、あと数年かかりそうだが、少しずつこの場にあったモノが足されたり、飾られたりすることで、ピカピカの新築物件から個の所有物へと姿を変えていく。庭も生き物との共存なので、想像していたようにはいかない。それでも、手をかけてやることで我が家の庭としての雰囲気を醸し出すのだろうと思うと、庭仕事にも精が出る。

家というものは、おしゃれに飾り立てるだけでは、インテリア雑誌の世界と何ら変わらない。時間をかけてその人となりが感じられることで、味わいや深みが出てくるものだと思っている。今や、「映え」するインテリアが本当の意味で素敵なのかとさえ、私は疑問に思うようになった。何年もかけて住む人のカラーがでてきた空間こそが、本当は面白いはすだ。

まだ我が家は、出来立てほやほやの1年生の香りがプンプンする。とってつけたように、以前からある家具が不格好に鎮座しているものもあれば、初めからしっくりと収まっているものもある。ここへ来て新たに加えられたキリムや家具は、妙に一体感がある。まだまだ、過去の家と今の家が織り交ざって、しっくりこない空間も少なくない。これも含めて私らしさの一部なのだろうが、過去と現在が混在して落ち着きのなさを感じざるを得ないのも事実だ。そのうちに、家具たちも自然淘汰されていきながら、また新たに加わり、この家のムードが定まってくるのだろう。一つひとつ、丁寧にものを吟味しながら探していき、処分していく。それを繰り返しながら、私と家との一体感が生まれてくるのだろう。

最近、引っ越した当初よりも私らしい家になってきたといわれることが増えてきた。私もここでの生活に馴染んでもきたし、お互いが歩み寄って溶け込みだしているのを感じる。
こうして、5年10年と過ごしていくうちに、「私の家」が出来上がっていくのだろう。
仕事柄、撮影でお施主様の家を訪ねることがあるが、新居にお邪魔したときより、数年経ってからの方が、どこか肩の力が抜けていい具合に住まい手が溶け込んでいるのがわかる。家というものは、まるで生きているかのように、ちゃんと育っていくのだ。

ここのところ、母から古い家具や調度品を譲り受けることが度々あった。子供の頃から見慣れていた家具や置物が家に入っただけで、少し雰囲気が変わるのを感じる。建物自体も間取りも壁の色も何ひとつ変わらないのに、置かれたものや選ばれたもので、空間は姿を変えていくから不思議ものだ。きっと、この家に別の主が住んだ途端に、また別の顔を見せるのかと思うと、建物そのものの面白さを感じずにはいられない。それこそ、建物が名脇役であることの証拠なのだ。それは家に限らず、敷地全体の雰囲気もそうだ。どんなふうに手を加えるのか、手入れをするかで、外柵ひとつ樹木の種類一つでも表情が変わる。これは内側から見ているだけでなく、外側からも同じことが言えるから、街並みというのは、住む人たち各々の意識でどんどん移り変わっていくのだろう。

引っ越した当初、数軒先のご高齢姉妹の家に招かれた際に、我が家の屋根を誉められたことがあった。「この地に合った建物をつくってくれてありがとう。あなたの家の屋根を見るたびに、きれいな家だと思うのよ」と言っていただいた。もちろん自分がその素材を使いたくて造ったのもあるが、この地にどんなものが馴染むかは真剣に考えたつもりだ。そういうことは、近隣との調和をもたらすから、私自身は大切にしている。

自分が好きだからと、なにもかも思い通りにやってしまうだけではなく、植栽にしろ、外柵の素材にしろ、外壁の色にしろ、その場所で調和がとれているか意識することも、近所付き合いの第一歩だと考える。

最近、お隣のおじいさんから、家庭菜園のお野菜をいただいた。私の平屋や庭を気に入ってくれたことで、庭越しに会話がされるようになったことがきっかけだった。もし、彼の家庭菜園に悪影響がでるほどの大きな建物だったら、ここまで仲良くはなれなかっただろう。そうした、少しずつの譲り合いや配慮が、ご近所との関係を築いていったと思っている。そのうち、いただいた野菜のお返しは、何かしなくちゃ。そんな付き合いができるようになったことを、ちょっと嬉しく思う。古い土地に入るということは、そうしたちょっとした新参者らしい礼儀と心遣いがあってこそ、街とのご縁ができていく。ご縁ができれば、その街で暮らすことに楽しさを覚えていく、繋がりができていく。そういうことが、今の時代、少しずつ忘れ去られてきているのかもしれない。

文:白鳥ゆりこ(しらとりゆりこ) 技拓株式会社 代表取締役
「家づくりは環境の創造であること」を理念に、経年を趣きにする家づくりを45年間続けてきました。本当の豊かな暮らしとは何か、ライフスタイルを通して提案しています。
https://www.gitaku.co.jp/