ヒトが暮らすということ

石けんが教えてくれたこと

15年ほど前だろうか、石けんは自分でつくれることを初めて知った。
きっかけは、友人の友人が作ったというオリーブ石けんをもらったことに始まる。あのなんとも言えない柔らかな泡立ち、ほのかな香り、洗い流した後の肌全体に広がる薄い被膜。あの時の感動は今でもはっきり覚えている。あの感動があったからこそ、暮らしに対する考え方に大きな影響を与えたと言っても過言ではない。
 
コールドプロセス製法という石けんをつくる手法に出会って、しばらく石けんづくりに明け暮れた。試行錯誤を繰り返すうちに、香りという側面だけでなく、アロマ本来の効能についても興味が湧き、アロマの資格まで取った。手づくり石けんは、植物性オイルと精製水と苛性ソーダからできている。そこに好みの香りや効能を加えるために、アロマオイルを配合したり、ハーブなどを入れたりする。植物性オイルに含まれる成分によって、肌荒れを修復する効果や潤いも与えられる。配合ひとつで、泡の立ち方や洗い心地にも変化をもたらすから不思議だ。

我が家のキッチンはさながら実験室のよう、自分の肌に合ったオイルの配合や、精製水の量をコントロールし、香りの配合を決め、いくつかオリジナルレシピをつくるようになった。肌につけるものだからこそ、素材にもこだわった。
 
それから数年、ようやく定番石けんにたどり着く。それは、シンプルな「米ぬか石けん」だった。生前、祖母がいつも米汁で顔を洗っていたのを、ふと思い出したからだ。祖母の肌は本当に艶やかで張りがあり美しかった。安心できる米ぬかを求めているうちに、合鴨農法の無農薬のお米に出会う。
手づくり石けんに目覚めたことで、自分の身体に影響を与えるものについて考え始めるきっかけとなった。必然的に自分の基盤となる暮らしそのものに、気を配るようになっていく。暮らしのベースとなる地域のこともその基盤としての意識が高まっていく。だからこそ、合成界面活性剤が使われない手づくり石けんを水に流しても24時間ほどで分解すると知った時は、環境に対する思いもひと際はせた。ならばと、身体を洗うだけでなく食器洗いや掃除にまで使い始め、次第に家中の洗剤が棚から消えていった。自然を循環させる合鴨農法のお米を食べ、精米で出る米ぬかで石けんをつくる。余すところなく暮らしに活かすという、「シンプルな生活サイクル」は素晴らしいことだと、当初は使命すら感じた。

そうなると、植物性オイルも料理で同じオイルを使うようになる。ちょっと贅沢ではあるが、質の良いオイルを使うことで身体の内外への効果も期待したくなる。その結果、「素材の味を引き立てたい」「食材も地元のものを意識して使ってみたい」「シンプルな味付けにしたい」「調味料もきちんと拘りたい」と、良い食材に意識が向く。そんな風にどんどん暮らしが変わり出すのだから、人の意識というモノは不思議なものだ。ご時世の後押しも幸いして、私の暮らしがよりシンプルへと移行していくと、なんとなく暮らしの本質というのが見えてきた気がした。「暮らし」とは常に自分の足元を見つめ直す行為に似ているからだ。

美肌のためであった石けんづくりが、環境への配慮や、自分の住む地域への思いにまで広がりをみせていくことで、いつしか「ジブンゴト」としてまちづくりに参加しているのだと、今の私は気づいている。
石けんづくりを始めてから15年、今ではそこまでストイックにもならず、地域を大切に取り込みつつ、シンプルに暮らすことを楽しんでいる。暮らしの足元を見つめることは、ヒトが生きるのに大切なことを思い出すことなのかもしれない。


白鳥ゆりこ(しらとりゆりこ) 技拓株式会社 代表取締役
「家づくりは環境の創造であること」を理念に、経年を趣きにする家づくりを45年間続けてきました。本当の豊かな暮らしとは何か、ライフスタイルを通して提案しています。
https://www.gitaku.co.jp/